イン・ザ・ユーロスター

羽田空港を出発してから29時間が経った。道中を楽しむことも旅の醍醐味ではあるが流石に疲れてきた。腹も減ったし、神経も張り続けている。まだ2時間半も電車が残っている。自分以外に頼れる人も勿論、誰もいない。

どうしてこうなったかと言えば、何を隠そう、旅行費をケチったからだ。羽田から直接アムステルダムに飛べばあと10万はかかったし、ドイツ国内からアムステルダムに飛行機を使うのも高すぎた。無論私にそんな金の余裕はない。そんなこんなで私は、娯楽たる海外旅行の最初の30時間以上を、神経を張り続けることを要する孤独で絶え間のない移動に費やすことになった。やれやれ。

とにかく今からやることを考えよう。街に出て発狂する。いや、それは違う。とにかくは一番乗る時間の長い電車に乗り換えたら席を確保して一時間半はゆっくりすることだ。それを降りればもう目的地はすぐそこだ。アムステルダム中央駅に着いたら宿はたしか3キロ少しのところにある。地下鉄か、別にタクシーでもいいか。

7時半過ぎに宿に着いたとして、まずは大荷物をなんとかしよう。もしベッドの脇とかにチェーンで繋げられるならそうして、無理そうなら今日のところ必要な着替えやら化粧水やらを取り出してリュックに移す。そしてスーツケースはフロントに預ける。貴重品は、シャワーの間や寝てる間は鍵付きロッカーに入れようか。リュックごと入れられればいいのだけど、無理なら分ける。

荷物の整理が済んだら、真っ先にシャワーを浴びよう。可能なら熱いシャワーがいい。そして歯を磨いて、髭を剃る。ついでに陰毛も剃ろうか。体をよく拭いたら化粧水と乳液を塗って、落ち着いた格好に着替える。ここまではできれば8時半までに済ませたい。こうなったら今日のところは体に鞭を打ってでも楽しみたいのだ。着替えたら街に出て美味しいご飯をたらふく食べてビールを流し込む。別に一杯ぐらいはいいだろう。そしてその後はコーヒーショップに行ってチル系のマリファナをふかす。一時間とか二時間ゆっくりして最低限頭がしっかりしたら宿に帰ってすぐに寝る。できれば12時半には寝たい。明日のことは明日考える。

とはいえ、大体は決まっている。朝はジムに行って、昼からは国立博物館アンネ・フランクの家あたりを観光する。その後は時間が余れば適当に時間を潰してRと会う。どこかでご飯を食べよう。

明後日。何もやり残すまい。朝ジム。サウナ。適当に観光。飾り窓。帰ってシャワーを浴びたら、翌朝の支度をして日記でも書いて寝よう。